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退屈だ。
いや、この世界にとか大それた意味じゃないんだ。ただこの時間にね。
この物語の舞台は、魔法が飛びかう異世界でも、三千年前の未知の時代でもなければ宇宙人が攻めてくる近未来でもない。
ただの二十一世紀だ。
その一般的な世界の一般的な教室で、退屈そうに担任教師の話を聞く彼の名前は仲宮空(ナカミヤ ソラ)。
これまたどこにでもいそうな普通の学生である。
今日は彼らの入学式。式はついさっき体育館で終えたばかりだ。
ここ都橋(トバシ)高校はごく一般的な公立高校で、彼らはこれからここで一日の大半を過ごすことになる。
空は高校生活初のホームルームの最中で、配られたプリントに目を通しながら話を適当に聞いていた。
「そうだな、話はこれくらいにして自己紹介でもするか」
この言葉を発したのは空の担任教師で、名前は五津井守(ゴツイ マモル)。
その名の通りごつい体格で、初めて見た時、空は校舎に迷い込んだボディービルダーかと思ったくらいだ。
空は運の無い事に席が真ん中の列の一番先頭だったので、彼が話すたびに飛び散る唾にうんざりしていた。
自己紹介か……。面倒というか恥ずかしいけど、このシーズンではお約束なので仕方がない。空がそんなことを思っていると、五津井は教室の右端にいる生徒を指差した。
「ほれ、番号一番相愛(あい あい)。そうだな……名前と趣味と皆にひとこと」
五津井先生はそう言うと教室の左端に設置してあるヒーターに腰を下ろした。
「は、はぁ……」
そう言って戸惑いの表情で席を立つ少女。
それにしても凄い名前だ。おそらく全国名簿早い者選手権では堂々の一位だろう。
特に事無く自己紹介は続く。
空は少しでも周りに良い印象を与えたいと思っていた。
実を言うと彼のこれまでの対人関係はあまり良くはなかったのだ。
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