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「この道なら安全じゃなかったのか?」
ぼそりと、横にいる相方に呟く。
バリサラ共和国の街道を一本外れた森の中、15歳位の少年と少女が山賊に囲まれていた。
少年は鋭い瞳にボサボサの琥珀色の髪。何故か右手に布を巻いている。
少女は紺色の長い髪を高く結い上げ、背には荷物といっしょに槍を背負っている。聡明そうな瞳は何事にも動じない頑なさを感じさせる。
が、今は少し困っているように細められていた。
紺色の髪の少女は目だけ少年の方を見て、
「シャン、私は『安全』じゃなくて『近い』って言ったんだけど」
「そうだっけか?」
シャンと呼ばれた少年は惚けながら頭を掻く。
少女はため息をつき、そして現状を確認するように取り囲む見回した。
山賊は全員で10人。
各々斧やナイフを手に二人を囲んではいるが、油断しているのか構えは隙だらけである。
「おい、嬢ちゃんたち命が惜しけりゃ荷物置いてとっととお家に帰りな……って」
山賊の長らしい男の口上を全く聞いていない二人は、勝手にブツブツ言い合いを始める。
「普通に街道通っていればこんな事にならなかったのにな……」
「……こっちの方が街に近かったんだもん。第一街道じゃ日が暮れるまでに着かないし」
「このままでも着かないだろ」
「ごもっとも」
二人同時にため息。
「話を聞け!」
山賊がとうとうキレた。
怒りにまかせ、ナイフをシャンに振り下ろす。
風を切る鋭い音が響くが、シャンはひょいと軽くかわしてみせる。
きょとんと山賊の表情が固まった。
「リン、このままじゃまた野宿になるぞ」
「それはヤだし、面倒くさいけど」
リンと呼ばれた少女はすっと槍を持ち、構えをとる。
「いっちょやりますか」
二人が、ほぼ同時に動き出した。
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