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書を骸の隣においた。
水のせせらぎ、鳥の歌声、木葉がざわめく。
紅葉で染まった村に心地よい音を流す。
骸の安らかな顔をみた。
「……父さん。ありがとう。」
紫苑の頬を一筋の水が流れた。
紫苑は庄子を閉め、外へ出た。
誰もいない道を歩き、森の中の広場へ。
広場の中央には巨大な丸太が埋まっていた。
巻かれた分厚い布は所々破れていた。
丸太から離れた場所に、紫苑は竹槍を持ち、ただ立っていた。
石になったように動かない。
風が吹き、落ち葉を巻き上げた。
紫苑は風に流されるようにすっと動いた。
竹槍を前に突いた。
何かが破裂したような音がし、丸太の中央には先ほどまではなかった穴があいていた。
隕石が落ちたようにえぐれている。
「………。」
ただ無言で立っていた。
「相変わらず…凄まじいのぉ。」
一人の老人が木の影からでてきた。
「師匠(せんせい)…。」
そこにあらわれたのは、かつての衛兵長でした。
「じゃが。迷いがみえる。」
「師匠…自分は…---
「どれ、わしが手合わせしてやろう。剣をもて。」
紫苑は剣をもち、先程とかわらない姿勢でいた。
「手加減は無用じゃ!」
「当然です。」
「いざ!」
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