始の章

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森の中にぽっかり穴があいたように広場があった。 そこには一人の人間がたおれていた。 「うー。また…かなわんかったわい。」 「当然ですよ師匠。」 空を見上げたまま、 「…なぜ当然だと思う。」 「師匠がお歳を召しているからです。師匠があと10年若ければ、自分は負け--- 「いいや。わしはお前には勝てんじゃろう。」 「!…師匠?」 「わしはな!お前の踏み台になれる!…そう思っていたが、やはりお前は将軍家の末裔!」 息をつぐ。 「わしが最後に、お前に試練を課そう。」 「万物を汚れなき眼で見つめ、良かれと思うことを成してこい。」 「え!ですが…!」 「お前は父の意志を知ったのだろう。何を迷う!」 「………。」 「明朝。村を旅立て。試練を果たすまで村に帰ることは許さん。」 「…それは師匠命令ですか?」 「村長命令だ。」 「…わかりました。明朝、村を発ちます。」 空には黒い雲が流れている。 時期に雨が降るだろう。 小さくなっていく姿を眺める村長兼、元衛兵長は、小声で呟いた。 「…失敗してもよい。…いつでも帰っておいで。」
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