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大嵐だった。
昼の空とは打って変わり、豪雨が大地を射、風が薙ぎ払う。
ガタガタと揺れる家の中で、紫苑は蝋燭を眺めていた。
愛馬の手入れも済み、必要な物は全て用意した。
笠の紐を付け替え、荷に被せた。
鞋も確認した。
もう確かめることは何もない。
明朝、誰にも見送られず、村を出るだけだ。
蝋燭を消し、布団に入る。
今はもう父はいない。
部屋には、持ち主を失った刀が寂しくおかれている。
すくっと立ち上がり、紫苑は笠を被り、外へ。
風雨をものともせず、一回り大きな建物へ。
そこには巨大な木が屋根を突き破りはえていた。
村のどこにいても見渡せる巨木だ。
紫苑は扉を開け、中へ。
三重の扉をくぐり、木の元へ。
根本から湧き出る水音だけが聞こえる。
ここは神聖な場所で、収穫を祈る時、結婚する時、村人が死んだ時のみ入ることが許される。
紫苑は根本に立つ。
祠の前で目をつぶった。
「お世話になりました。どうか、安らかにお眠りください。」
木に向かい。
「守護神様。私は明朝、村を発ちます。これからも村をよろしくおねがいします。」
背を向けようとしたとき、頭上から光る物が落ちてきたのに気づいた。
金色の紙だった。
紫苑は手にとった。
すると、目も眩む光が紫苑を包みこんだ。
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