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『ピー……“あ、こんな非常識な時間にすみません。黒瀬です。明後日の会議の件ですが、プロデューサーさんが倒れたため延期されることになりました。詳しい日程はまだ未定ですが、3、4日は休むとのことです。早く知らせなきゃと思って思わず電話してしまいました。えっと、お休みなさい……”ピー……メッセージは以上です』
「……助かった……」
思わず呟かずにはいられない。
征霧はインスタントコーヒーを作りながらふっと安堵の息を吐く。
こんがり焼けたトーストにバターを泳がせる。
とろりと溶けだしながらパンの上を滑るそれを見ていると、今度はベッド上に放置しておいた携帯の着信音が部屋中に鳴り響いた。
「……クソ」
今が一番おいしいだろうトーストを渋々皿に戻して、征霧は苛々と携帯を取りに隣の部屋のベッドへ戻る。
名前を見れば、先程も声を聞いた、“非常識”な黒瀬だった。
「…………んだよ黒瀬」
『おはようございます……。怒ってます?青空さん』
電話の先でかすかに怯えている声に、征霧はチッと舌打ちをかえす。
『ひっ……なんかすみませんっ』
まぁ征霧がおいしくトーストが食べられないことに切れているとは、相手は思ってないだろうが。
「用件はなんだ」
『あ、はいっ。あのですね、先日ライトニング社からゲームサウンドの依頼が……』
「却下」
『えっそんなっ』
黒瀬は激しく狼狽え、『ちょっ少しは考えて下さいよっ』と叫んだ。
「正味一秒は考えた」
このスランプ時に仕事を掛け持つことなんて自殺行為だ。
とても現在の自分のスペックで対応可能とは思えない。
征霧は眉間に皺を寄せ、落ち着いた声で「無理だ」と念を押す。
『そう言わないで……忙しいときは五本くらい余裕で掛け持っていたじゃないですか』
「………」
普段の黒瀬なら、残念そうにそうですかと引き下がるのだが、今日は違った。
妙に言葉尻に熱があり、どうしてもこの依頼を受けて欲しいという感情がこもっている。
「お前、なんかそのライトニング社とやらに弱みでも握られてんのか?」
そう問い掛けた瞬間、黒瀬が息を詰めたのを征霧は聞き逃さなかった。
これは、なんかあるに違いない。
『あ、いや、弱みなんてっ握られてませんよっ』
「……分かった」
『へっ?』
「直接話しに行く。今日だ」
征霧はブチリと一方的に電話を切りリビングに戻った。
「ライトニング社……聞いた事あるな」
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