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某日
とある高層マンションの一室。
青空征霧は悩んでいた。
デスク上の灰皿には昨日から現在にかけて吸った煙草の吸殻があふれるほど詰まっている。
窓は真冬の深夜なのにも関わらず開け放たれ、もうもうと立ちこめる紫煙を吸い上げては吐き出す作業を繰り返し続け、ついでに征霧の溜め息も外へ放出していた。
「……………」
ガンッとキーボードを力任せに叩き、征霧はクッションの厚い背もたれに沈む。
「糞……何も浮かんでこねぇ……」
三台並んだデスクトップパソコンの中心に映る五線は見事なほど真っ白で、言うまでもなく彼はスランプに陥っていた。
時刻は既に日を改めてから長針が三周目に突入してしまっている。
やり始めたのは前の日の夜8時。全く7時間も悩んだのに何も音が見つからないことに、征霧の苛立ちはピークを迎えた。
「もう枯れたのか俺の才能は。ったく情けねぇな。馬鹿たれ。アホが」
自分に向かって言う罵詈雑言も今は虚しく空気に溶ける。
また煙草に伸びそうになる手を押さえながら、征霧は本日何十回目の深い吐息を吐き出した。
「もう寝よう……」
征霧はさすがに無理に考えることを諦め、椅子からベッドへと移動した。
彼はフリーの作曲家である。
メインはゲームミュージック作成であるが、最近はドラマの劇中歌なども手がけるようになった。
弱冠26歳にして、多業界から引っ張りだこのミュージッククリエイター……になり初めての壁衝突に、征霧は余計に焦っていた。
「明後日の会議までにサンプル作らなきゃいけねぇのに……」
しかしそんな彼にも眠気は容赦なく襲い掛かり、重たい瞼が落ちかけたとき、リビングの端でけたたましく電話が鳴りだした。
「畜生……非常識な野郎だな……」
でも出る気は毛頭なく、留守電に切り替わる電子音を征霧は薄れる意識の端で聞いていた。
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