Section 1-1

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「ういーっす龍也、帰ろうぜー」  後ろから名前を呼ばれ、伊織は振り向く。そこには、かけた眼鏡をくいっと上げ、気だるく鞄を背負って完全に下校モードの木山真二がいた。  木山は伊織と同じ中学で、文化祭の時に一緒にバンドを組んだ間柄だ。進む高校も同じだった為、中学校からこうして一緒にいることが多い。 「ちょい待ち! 俺、コレ行ってくる!」  伊織は何度も持ってくしゃくしゃになった部員募集の紙を木山に見せる。木山は訝しげに紙を覗き込むと、納得したように口を開いた。 「ああ、なるほど、だから今日の入学式もお前ずっとニヤニヤしてたんだな。キモイ」 「キモイ言うな」 「まぁ中学ん時からお前ずっと言ってたもんなー」 「真二、お前は入んねーの?」  木山は近づけた顔を紙から離すと、困ったように苦笑いを浮かべて自分の髪を2、3回掻いた。 「いやなー、俺もバンドやりたいけど、他にやらないといけないことが……」  伊織は口を尖らせて、不満を露わにした。確かに高校受験の前から木山はバンド活動を続けることを渋り続けていたのだが、木山の演奏を誰よりも楽しみにしている伊織は根気よく誘い続けてきたのだ。  最後の最後で誘いを断られてしまい、伊織は鼻を鳴らしてようやく諦めることにした。それでも最後の抵抗にと小言を残すことにする。 「家でゲームか? つまんねーの」 「……違ぇよ、勉強だよ」 「うわキモイ」 「キモイ言うな」  テンポの良い返しに、思わず伊織は噴出す。それにつられ木山も自然と口元が緩み、伊織と笑い声を上げる。声が収まると木山は言葉を続けた。
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