Section 1-2

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 風呂から上がり、フード付きの上下白ジャージ姿で自室に戻る。ベッドの横に置いてあるお年玉をはたいて買った、黒い色をした安いレスポールタイプのギターをいつも弾くのだが、今日はギターを握る気にもなれなかった。  伊織はベッドに寝転び、お気に入りの音楽をヘッドホンを着けて聴いていた。例え軽音部に入れなくても、この高校生活を音楽で全うする手段はいくらでもあるはずだった。  だが、今まで目指してきた目標にこうもあっさりと足切りをくらうと、なんともやるせない気分になる。いつもは流れるように頭に入ってくるオーバードライブをかけたエレキギターの音色は、今日はただの雑音にしか聞こえなかった。  小さくため息をつき、伊織はヘッドホンをはずす。伊織にとって軽音部に入れなかった今日の夕方の出来事は、生きる目標を失った事と同様だった。
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