いつか帰るところ

10/13
前へ
/166ページ
次へ
目を丸くして驚くメアリー。 そして笑いだした。 なぜ笑うの。 少女は少し怒りを込めた。 ごめんなさいね。 そういいながらメアリーは用意していたココアを少女に差し出す。 一緒にいるだけで相手を不幸にするだなんて、あなたなかなかマセてるわね。 それは女が男に言うセリフよ。 そんなつもりじゃ、 少女はすかさず反論する。 いいのよ。 メアリーはそれを笑顔で制する。 あなたは綺麗になるわ。 本当に男を困らせる女になるかも。 温かいココアを口に含み続ける。 だから心配しないで。 あなたは心がとても敏感なの。 皆が気付かない、相手の心の事を本当によく考えている優しい子。 今は相手も、自分自身もそれを理解してはいないかもしれないけど、不安に思うことはないわよ。 私はね、あなたのそういう所が本当に好き。 少女は自分の顔が赤くなるのを感じた。 そんな風に言われたのは初めて。 慌ててココアを飲み込む。 おいしい。 メアリーはそんな少女を温かい眼差しで見つめていた。 ――――――― 柱にあるいくつかのキズ。 側に数値と名前が記してある。 121 マイケル 119 ケリー … 112 シェリー あたしはその文字を指でなぞる。 周りを見渡しても、建物の老朽化はひどい。 多分、あたしの置いていったお金は使ってない。 そう考えてため息をつく。 あたしは間違っていたんだろうか。 「疲れたんじゃない?少し休んだら」 背後から声。 そして甘い香り。 ココアを淹れたわ。そこに座って。 メアリーはテーブルにカップを置き、自らも腰かける。 あなたね。 いつもお金を置いていってくれているのは。 あたしは答えずにココアを飲む。 「昔ね」 メアリーが話し始める。 「この院にあまり周りに打ち解けない子がいてね、私は少し心配していた事があったの。でもその子に気付かされたわ」 ココアを飲む。 「打ち解けない、って捉えるのは私の偏見。その子は内気で、心の伝え方を知らなかっただけ。優しい心はいつも持っていたのよ」 メアリーはあたしの方を見る。 「心配なのは、今も心を表現できずに困っていないか、誤解を招いていないかという事が気掛かり」 キャット。 あたしはメアリーから目をそらす。 あなた、もしかして… その時、扉が激しく開く音がした。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加