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銃を足元に置き、スネークに近寄る。
もっとだ。
スネークは怒鳴る。
言われるがまま、手の届きそうな距離まで歩を進める。
あたしはスネークではなく少年を見ていた。
「大丈夫よ。あたしがいるから」
大丈夫じゃねえんだよ。
ゴツッ。
鈍い音が響く。
スネークは銃の柄でキャットの頬を殴り飛ばした。
子供を乱暴に床へ叩きつけ、倒れたキャットの腹部を蹴りつける。
衝撃であたしは呼吸ができなくなる。
さらに体や顔、至るところに痛みが走る。
飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止める。
執拗な攻撃は、スネークの息が続くまで終わらなかった。
「私に楯突いたらこうなるのよ」
肩で息をするスネーク。
あたしは痛みで体が動かない。
鼻血で呼吸が詰まり、瞼が腫れ、距離がつかめない。
でも、銃口があたしを捉えているのは判った。
いつかあたしは死ぬ。
いつもそう思っていた。
人を殺し物を盗む。
まともじゃないあたしは、きっと惨めに死ぬ。
覚悟もある。
その時が、今こうして来た。
けど、心に去来する思いはそれとは違った。
メアリーの柔らかな笑顔が脳裏をよぎる。
あたしが死んだら、あたしが死んだら。
死にたくない。
死んでいる場合じゃない。
死にたくない、
死にたくない。
優しい言葉。
温かいココア。
メアリー、
マザー・メアリー。
あたしは、死にたくない。
そして、銃声。
初めて怖いと心から思った。
体は色々な場所が痛い。
だが、撃たれた程じゃない。
ぼやける視界の中で、スネークの体がよろめき、倒れる。
何とか体を動かし、銃声のした方を見る。
そこにはメアリーがいた。
いつの間にかそこにいた彼女が、あたしの置いた銃でスネークを撃ち抜いたのだ。
体を起こしたあたしはスネークを見る。
胸から血痕が拡がって、床にまで流れ出す。
死んでいる。
助かった。
メアリーが駆け寄ってくる。
大丈夫、大丈夫?
あたしの手を握りしめるその手は震えている。
恐らく初めて撃ったであろう銃。
彼女も怖かったハズだ。
あたしの無事を確認すると、いつもの柔らかな笑顔になる。
助けられたのは、あたしだった。
優しさが、温かさが、まだ震えているその手から注がれる。
この手は、いつもあたしを守ってくれた。
小さくて、消えてしまいそうだったあたしの心を包んでくれていた。
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