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あたしとメアリーの目が合う。
「こんなに傷ついて…きっと今までも辛い思いをして来たのでしょう」
ごめんなさい、シェリー。
メアリーはあたしをそっと抱き締めてくれた。
シェリー。
あたしを、そう呼んでくれた。
あたしはそのままメアリーの胸に身を委ねる。
温かい。
感情が溢れる。
でも、どれも言葉にならない。
ただひとつ、これだけは伝えたかった。
遠い記憶。
ずっと昔から言いたかった、伝えたかったの。
涙が頬を伝う。
ありがとう。
ありがとう、ママ。
―――――――
翌日、あたしは街を離れる列車に乗っていた。
あの後、警察を呼び、既に死んでいるスネークを警察に突き出した。
メアリーには正当防衛が適用され、罪に問われる事はなかった。
あたしは、その場にいなかった事に。
メアリーはあたしにここに残ればいいと促してくれた。
確かに、あたしの帰る場所はここなのかもしれない。
でも、子供たちと視線を交わすには、あたしは汚れすぎている。
残念だが、やはり似つかわしくない。
手当てを受ける間も、子供たちはあたしに会いに来てくれ、お話を聞かせてくれる。
あたしも、あたしもあの時、こんな風に笑えていたら。
締め付けられる想いはここに置いていこう。
そう決めた時、あたしは孤児院を抜け出した。
列車の中であたしは思う。
二度目の家出。
一度目も同じ気持ちで抜け出した。
あたしは何も変わっていない。
ごめんなさい、ママ。
あたしは、やっぱり帰れない。
列車は加速していく。
そのまま、あたしの想いを振り切って。
いくらきれい事を並べた所で何かが許される事などない。
罪を重ね、その先にいつか死ぬ。
だからママ、あたしは行くわ。
シェリーはもういない。
ここにいるのは誰でもない。
キャット。
あたしを知る人はそう呼ぶ。
あたしは怪盗。
ただのそれだけ。
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