いつか帰るところ

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だがその手は難なく振り払われ、返答は銃口で返ってくる。 メアリーはその場に固まる。 女は暫くメアリーを睨み付けていたが、僅かに視線を外し、その背後の向こうに目をやる。 不穏な空気を察して様子を見に来た子供達がそこにはいた。 それを制して、奥の部屋に戻りなさい。 そう言おうとするメアリーに再度銃口が突き付けられる。 「出ていくのはあんただけでいい。ガキどもは私が引き取るよ」 行くよ。 手下と見られるチンピラに短く命じ、踵を返して女は去った。 すかさず子供達はメアリーに駆け寄る。 「ママ、大丈夫?」 「ママ、怪我してない?」 思い思いにメアリーを各々が案ずる。 メアリーはその思いやりの心に笑顔で返す。 そして皆を包み込むように抱き締めた。 「大丈夫よ。ママは何ともないわ。皆、怖がらないで。きっと神様が護ってくださるからね」 子供達はメアリーに寄り添う。 メアリーは天を見上げる。 どうかこの子達だけはお守りください。 救いを求める先は神しかいない。 それは絶望の裏返しであることを、彼女は自覚していた。 ―――――――― 最近、よく耳にするようになった話がある。 ライネル・ホットウェルがいなくなり、この街に台頭する勢力があるという。 その集団のリーダーはなんと本物の修道女。 地位を利用した狡猾な犯罪を繰り返し、裏の世界を牛耳りつつある。 相手をじわりと追い詰め、全てを奪う手口から、巷ではシスター・スネークと呼ばれている。 悪い奴はいくらでもいる。 あたしが言えた義理じゃないけどね。 誰がその欲を満たそうと悪事を働いた所であたしの知ったことじゃない。 その集めた金をまたあたしが奪うだけ。 その先にあるのはどちらかの破滅。 それでいい。 そういうつもりで日々あたしは生きている。 ある日の事だった。 とある窃盗団の逃走車輌にあたしは手をかけていた。 こいつらは間違いなく二流だ。 盗むことばかり考えて、盗まれる事を考えていない。 加害者であることに安心しているんだ。 やる側とやられる側は背中合わせ。 その覚悟もない馬鹿はこうやって足元をすくわれる。 車輌には恐らくこれまでの戦利金であろう金が、どっさり積んであった。 こいつらは盗みに向いていない。 さっさと足を洗うか、死ねばいいんだ。 あたしはその足で行きつけのブローカーへ車を運んだ。 「キャット、最近稼いでいるそうじゃないか」 問われる言葉に、小さな微笑みで応える。 違うわ。 街にマヌケが増えただけよ。
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