いつか帰るところ

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キャット。 スネークがあたしを呼ぶ。 銃口はこちらを捉えている。 私と組むのよ。 言葉は更に続く。 「キャット。私はあんたを認めてる。金なら好きなだけあげるわ。私とこの街を手に入れるのよ」 ホットウェルは同じことを言って死んだわ。 あたしの言葉にスネークは嘲笑する。 あんなのなんかと一緒にしないで。 「いいこと、あんたもこの世界で生きてるんなら分かってるんでしょ。稼ぐなら、生き残るんなら上を目指すしかないのよ。変なこだわりで一匹狼気取っても死ぬだけなのよ」 スネークの言っている事はよく解る。 あたしのやり方ではいつか死ぬ。 「聞かせて欲しい事があるわ」 あたしは引き出しから取り出した書類を掲げる。 スネークは少し首を傾け、考える素振りを見せる。 いいわ。そういって語りだした。 「それはこれから展開するビジネスの下地よ」 かいつまんで解説すれば、詰まる所、補助金狙いだ。 この修道院に孤児院を併合すれば、街から出る補助金が倍になるという。 それに寄付の口も増える。 まさに立場を利用した手口だが、この話しには裏がある。 「あなた、本気で子供を預かる気なの?」 あたしの質問にスネークは高らかに笑う。 「クククッ、見える?私がそんな風に。バカ言ってんじゃないわよ」 補助金や寄付なんかははした金。 ガキはね、金になるのよ。 縁組斡旋。 大金をはたいて里親を申し込むルートがあると聞いた事がある。 当然、正規の手続きを行わず、闇取引となる。 売られる先も、まともではないのがほとんど。 予想した通りだ。 このリストは引き取り先の名簿。 売春業者、犯罪組織… どれもクズだ。 「この街に孤児なんか腐るほどいる。そんな奴等に居場所を与えてやろうってのよ。聖職者の考えそうな事だって、感心するでしょう」 スネークは笑う。 あたしは見た。これは悪魔だ。 手にしていた書類をまとめて握り潰す。 床に投げ捨て、ツバをはきかける。 スネークの表情が険しくなる。 「それが答えってわけだね」 間髪入れず放たれる銃。 それより速く、あたしは身を伏せる。 そのさま、銃で天井の照明を撃ち抜く。 途端、小さな部屋は闇に包まれる。 スネークは舌打つ。 「あんたはバカだよ。物事を自分の尺度でしか計れないのかい」 犯罪に良いも悪いもない。 稼ぐか死ぬかしかないのだ。 それは解ってる。 何度でも言うわ。 解ってるのよ。
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