いつか帰るところ

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「あなた、よく喋るのね。意外だったわ」 スネークはあたしの声がする方を見る。 「もう一度だけ聞くわ」 私と手を組みなさい。 フフッ。 「そのしつこさは名前譲りなの?」 あたしは暗闇の中、移動する。 「このドロボウ猫がぁーッ!」 スネークは暗がりに向けて銃を乱射する。 暫くして再び静寂。 スネーク。 あたしはその名を静かに呼ぶ。 「あなたの用意したテストはここに辿り着くまでの事を言っていたのかしら」 どういう事。 問い返す声がする。 あんたはここで死ぬんだよ。 出られる訳なんてねぇだろうが。 あたしは深く息を吐く。 この修道院はかなり古い。 また、建物の造りから、さして丈夫ではない。 さらに、先程の銃声の反響度合いからして、この壁はかなり薄いものだということがわかる。 耳を澄ましてよく聞けば、最も脆い場所の特定も可能。 「あたしは危険と解っている所に無策で来るほど呑気じゃないのよ」 その言葉の意味をスネークは理解できないだろう。 とっさにあたしは傍らに備えてあったベッドのマットレスで体を覆う。 次の瞬間、壁際から爆発音。 衝撃でスネークは床に倒れ込む。 何が起こったのか、たちまち理解は出来ない。 煙と塵。 そしてキャットはもういない。 まさか小型爆弾で壁を破壊して脱出口を作るとはね。 部屋を暗くして動き回っていたのはこれが狙いだったか。 流石はキャットと言っておこう。 だが、生かしておかないよ。 あんたはこのスネークが殺してやる。 ――――――― 用意しておいたバイクであたしは逃走する。 その足で向かう先は、例のハミルトン孤児院。 時の頃は日付の変わる前。 急がねば。 数分で目的の場所に辿り着く。 既に静まり返っているが、1つだけ窓に灯りがともっている。 バイクを門内に停め、急ぎ足で扉の前に立つ。 そこであたしの足は止まる。 駄目だ。躊躇なんかするな。 自分に言い聞かせて鼓舞する。 意を決して扉をノックする。 二度。 暫くして、扉越しに人の気配がする。 「何か御用でしょうか」 声がする。 開けなさい。 言おうとして言葉に詰まる。 1つ呼吸を置く。 「どうしても伝えなければならない事があるの。開けてもらえないかしら」 間が空く。 当然だ。こんな時間の訪問者に警戒しない訳がない。 しかし何としても開けてもらわねばならない。 その時、カチャリ、と鍵の開く音がした。
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