決心

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鳥居に着くと、さらに夏祭りの客 と、露天で賑わっていた。 あづさはまだ来ていない。 ボクは目についた露天でコーラを 買って、鳥居にもたれながらしゃ がんだ。 家族連れか… 生まれてすぐに母を亡くしたボク のことを、父と姉貴は大切にして くれた。 父と姉貴の間に入り、両手を繋い で、ぶらさがって歩いたものだ。 母がいないことを深く考えたこと は、たぶんない。 でもそれは、生れつきいないから とか、慣れてしまっているだとか ではないような気がする。 強くて大きい父と、まるで母親の ように優しい姉貴に、気を遣って いた…のかな… 母の写真は、一枚だけある。 父と二人で写っている写真。 誰に言われなくてもそれが母だと 感じていた。 生後一週間。 母はボクを抱いただろうか… ボクは、母のお乳を飲んだのか… 父や姉貴に聞いたことはない。 なぜボクを産んだんだろう… 自分の命と引き換えにしてまで… 『ミチル、ゴメン! 待った?』 振り返ると、そこには女子高校生 ではない、一人の浴衣を着た女性 が微笑んでいた。 『あ、あづさ…綺麗だね!』 『やだ、バカ…』 ボクは、半ズボンにTシャツとい う出で立ちだった。 『釣り合わないかなぁ… こんな格好じゃ…』 『平気よ! 行こう!』
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