Shall We Dance? 前編

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時刻は早朝。天気は快晴。 窓から差し込む光が網膜に直接飛び込んでくる。 光の強さに顔をしかめ、お玉を持った手とは逆の手で目を擦る。 使い込まれた金属製の鍋の中から香る、カカオの甘い匂いが漆黒の髪と双眼、黒災の民である特徴を持つ女性――ハルルト・ハルルの鼻孔をくすぐった。 この家の持ち主である、空のような淡い青の髪と双眼の少年――クォンは、二階にある自室の木製のベッドの上で背を丸めながら夢の中。 無垢な表情をして、こころなしか開いた唇からはかすかな寝息が規則正しく立てている。 「もう、明日なんですよね……。よし、頑張ろう」 一階のキッチンへ立っているハルルトは鍋を乗せた小さなコンロの火を止めた。 一周、二周と鍋の中身をお玉でかき混ぜた後、弧を描きながら中身をすくい上げる。 一段と強くなったカカオの香りが鼻孔をつく。 ハルルトは絆創膏だらけの指の中、唯一無傷な小指をお玉に付ける。 ハルルトの白い指が茶色に染まる。 そのまま、茶色くなった指を桜色の唇に持って行き、ぺろり、と舌で舐めとる。 「うん、我ながら上出来だ」  
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