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佐さまは、すでに手紙を読み終え、返事を書いていた。
「盛長……。少しだけ、座をはずしてはくれないか」
そう安達くんに言って、四郎を見る。
「大事な話がある」
「…………」
安達くんは、盥を手に、黙って出て行った。
ほとんど同時に、佐さまは、文机のまえから離れ、
「四郎……」
と、四郎の肩に手を回してきた。
「……は、はい」
四郎は、突然の意外な事に驚き、緊張のあまり、動けなくなった。
いままで、何度か、政子ネェの手紙を届けるために、この家に来たことはあったけれど、佐さまと二人きりになったのは、これがはじめてだった。
「四郎、震えてるのか」
佐さまは、優しげな笑顔を見せた。
「は…いえ」
「四郎……。大事な話がある。……」
「はい……」
「……わたしは、近く、挙兵する」
「キョヘイ……?」
驚く四郎の様子に、再びかるく微笑して、
佐さまは言った。
関東の豪族たちは、いま、都の平家のやり方に、ひそかに不満を持っていた。
もともとは同じ武家の出身のはずなのに、平家は、清盛をはじめ、一門すべてが公家の殿上人になりあがって、遠く宋との交易をはじめ、世間に金の流通を命じ、関東の農業の産物を安く買いたたき、ボロ儲けをはじめていた。
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