16人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
そんなある日私は、散歩の途
中で大事なものを落としてしま
った。
母の形見のブローチ。
それは日本の手毬の形を模っ
た五センチほどのものだ。
そして私の母の名は、毬子と
いった。
それは何時だったか、母の誕
生日に父が、精一杯の背伸びを
して送ったものだ。幾らの価値
があるものかは知らないけれど
、たぶん安物じゃない。
プレゼントした後、父が何ヶ
月か禁酒をしていたのを覚えて
いる。父はへそくりの全額をつ
ぎ込んだのだと思う。
母の喜び方も、見ていて羨ま
しいほどのものがあった。プレ
ゼントを貰った母は、間違いな
く十歳は若返ったように見えた
。
最初のコメントを投稿しよう!