川べりにて

2/15
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
 そんなある日私は、散歩の途 中で大事なものを落としてしま った。  母の形見のブローチ。  それは日本の手毬の形を模っ た五センチほどのものだ。  そして私の母の名は、毬子と いった。  それは何時だったか、母の誕 生日に父が、精一杯の背伸びを して送ったものだ。幾らの価値 があるものかは知らないけれど 、たぶん安物じゃない。  プレゼントした後、父が何ヶ 月か禁酒をしていたのを覚えて いる。父はへそくりの全額をつ ぎ込んだのだと思う。  母の喜び方も、見ていて羨ま しいほどのものがあった。プレ ゼントを貰った母は、間違いな く十歳は若返ったように見えた 。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!