井土ヶ谷レイニーブルー

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「君は……そんなところで何をしているの?」 「ん。電車を待ってるだけだよ」 電車なら今まさに行ってしまったばかりだ。 だとすれば彼女は、僕の後にここに来たのだろうか。 いや、そんなはずはない。僕の真後ろにあるこのベンチに座るのに、僕の側を通らずに行けるはずは無いのだ。 しかも、僕も今しがたこのホームで電車を見送ってしまったばかり。 だとすれば、少なくとも彼女は先ほど発車した電車に乗れる状況にありながら、それを見送ったのだ。 こんなずぶ濡れの状態で。 迂闊だった。まさか質問の答えを貰って余計混乱することになってしまうなんて思いもよらなかった。 「まだ次の電車まで十分以上あるよ。座んなよ。一人じゃ寂しいからさ、話し相手になってくれると助かるな」 もう一度、彼女がベンチを叩く。 彼女の細い指の動きに合わせて、水飛沫が弾けて踊った。 「う、うん」 仕方なく僕は頷いて、申し訳程度にベンチの上の水を手で払い、彼女の横に腰かける。 濡れたベンチは、手で払ったくらいでどうにかできるはずもなく、僕の学ランのズボンからパンツまで、一瞬で水が染み込んでくる。 お尻に伝わるヒヤリとした感触に身を震わせる僕を見て、彼女はまた大きな口を開けて笑った。 「アハッ、ごめんね。やっぱり冷たかったか」 クックッと笑う彼女の姿はまるで小悪魔のようでもあったが、不思議と憎たらしい感情は沸かなかった。 それよりも僕は、まるで風呂上がりを思わせるような彼女の濡れた黒髪や、肌にひっついてリアルな肌の色や白い下着を透けさせるセーラー服に動揺してしまい、迷子になった視線の処理に困り果てていた。 「あ。何かやらしいこと考えてるでしょう?」 「そ、そんなことないよ」 ググイっと上目遣いで覗き込んでくる彼女の目線は、また僕にとっては攻撃的で、不意に瞳を逸らしてしまう。 そんな僕を見て、また彼女は、下着ばかりか喉の奥まで見せつけてくるような大きな口を開けて笑った。 「まあ別にこんな状況だし、仕方ないけどさ。はぁーあ、男の子ってやっぱりみんな同じなんだねえ」 そんなことを言いながら、彼女は口の端っこだけを吊り上げて、思わず見とれてしまうような微笑みを形作る。 なんだか彼女は僕よりも遥かに大人で、様々なことを経験してきた人間なのでは無いかと、根拠もなく思ってしまうような雰囲気だった。  
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