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「私、曽我未来。ミクって呼んでよ。君は?」
「ぼ、僕は……霧山大介」
彼女――ミクに見とれている所を不意に話しかけられたものだから、僕は慌ててついついどもってしまう。
しかしそんな僕の失態など全く気にする風もなく、ミクは手を叩いて大袈裟なリアクションを取りながら、またその大きな口を目一杯開けて、屈託無く笑う。
「大介! いいねえ。将来でっかくなりそうな、いい名前じゃん!」
そう言って、ミクは僕の背中を叩く。吹き込んでくる雨に濡れた僕のシャツが、ベチョッと嫌な音を立てて肌に張り付いた。
「き、君こそ、未来がありそうな名前じゃない」
あまりにミクが大きく反応してくるものだから、僕も思わずミクの名前を訳のわからない誉めかたで讃えてしまう。
しかしそんな僕の言葉がミクにもたらしたのは、先ほどまでの大きな笑いでも、はたまた苦笑いでもなく、憂いに満ちた表情だった。
「未来……か。あんのかねえ、そんなもんが。私に」
そう言って、ミクはぼーっと線路を見つめる。
その姿はさながら、かごの中から広い世界に憧れる、カナリヤのようだった。
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