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「未来は誰にだってあるよ。一分一秒の先は、もう未来なんだ。僕達は、今を生きてるんじゃない。常に未来を生きてるんじゃないかな?」
僕が似合わないことを言ったからだろうか。
ミクがきょとんとした表情で僕を見つめる。
「なんだよ。どうせ似合わないさ」
「いや、そんなことないよ。へえー。君ってそういうこと語っちゃうタイプだったんだ。何か嬉しいなあ。最後に君の新しい一面が知れたみたいでさ」
「……最後?」
ミクの言葉に含まれた違和感のある一言語に、僕は思わず反応してしまう。
何故かざわつく胸は、僕の意図せぬままに、これから紡がれる彼女の言葉を予想しているのかも知れない。
「実はさぁ。私、彼氏がいたのよね」
「そう、なんだ」
「でもさ、死んじゃったの。去年のちょうど今日、この時間の電車に飛び込んでね。受験ノイローゼだってさ、笑っちゃうよね。私なんか適当に進路決めてたのにさ」
澄み切っていた彼女の声が、段々と濁りを伴い始める。
それと同時に、この場を流れる空気も不穏な色を醸し出し始めていた。
「忘れようって思ってたんだ。人生まだまだ長いんだって、男なんか他にもいるんだって、そうやって生きてきたの。一年間」
彼女が、笑う。
雨の降りしきる空を見上げて、笑う。
「でも、無理だった。今でも彼のことが大好きで、毎日どうしようもなく寂しくて、だから……」
パシャっと、軽快な音を立てて、彼女が立ち上がる。
そして、くるりと僕の方へ向き直ると、にっこり笑って言った。
「だから、私も死のうと思います。同じ日の、同じ電車に飛び込んで。それが、私が独りで一年を過ごしてみて出した答えなの」
ごめんね、と彼女は歯を見せて笑った。
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