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昼間には人で賑わっていた繁華街も今は、しんと静まり返っている。 その闇の中で突然、何かが弾けたような音が響いた。それに続き、男の喚き声が谺する。 「い…嫌だ死にたくない…頼むから殺さないでくれ…。か、金も盗んだものも、お前らに全部やるから。た、頼む」 もうこの男には理性の欠片すら残されてはいなかった。ただひたすら泣き叫びながら目の前で己を見下している青年に哀願するしか出来ない。 眼鏡にスーツという出で立ちの青年は、冷たく低い声で男に話かける。 「助けて?馬鹿も休み休み言え。お前に…助けを求める権利はない。勿論俺が貴様を助ける道理もな。」 青年の顔が月に不気味に照らされている。うっすらと笑みを浮かべながら男を見下している。 「頼むから…頼むから助けてくれよ。俺には子供がいる…だから」 「子供がいるから何だ?お前は今まで何人もの子供を誘拐…そしてその子供の親に身代金を要求し…親が恐怖に震えパニックになり警察に行っている隙に金目の物を盗み…それを高値で売ってたんだろ?誘拐した子供は皆殺害…して」 青年は男に銃口向ける。 「…それは…」 男が言葉に詰まるのを青年は見逃さなかった。 「違うのか?ならどう違うのか説明しろ」 男を見下す目は更に冷たくなる。 「…ッ……」 「子供たちは…親は今のお前より恐怖を感じたんだよ。だから……今のお前の恐怖なんか比じゃない筈だ。」
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