一章

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(……なんで、あの人と同じ声を……) 独特の低音な声は酷く懐かしく、穏やかな声色だった。 「……ふう、まさかこんな所で行き倒れになるとは……」 まるでスローモーションのような動作で薄い灰色の長髪を掻き上げるその人物に銀時の目が見開かんばかりに瞠目し、口を魚のようにパクパクと開閉する。 (……まさか……そんなずない……) 信じられない。 嘘なのではないかと思った。 けれど貴方はあの頃と変わらない優しい声で俺の顔を見つめながら、俺の名を呼んだ。 「……おや?貴方は……銀時ではないですか?」 「……なっ……」 忘れる事のない貴方の笑顔が目の前にあるなんて…… 微笑むその人物を凝視し、呆然とする銀時。 「銀さん、知り合いなんですか?」 横から新八が問いかけてくるが、銀時の耳にはそんな新八の声など入ってはこなかった。 ただただ目の前の人物を見つめる事しかできなかった。 けれど銀時はフリーズしたかのように固まった頭の中で、確かめなければと焦りにも似た思いが喉の奥に声としてせり上がってきた。 そして震える声で愛しの名を呼んだ。 「……松陽先生?」
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