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「馬鹿とはいったい誰の事ですか?」
キョトンとした表情でたまが問いかけてくる。
そういえばたまは店の中で掃除をしていたから知らないのだったな、と思ったお登勢は芯の短くなった煙草をくわえ煙を肺に送った。
独特の苦味が吸い込むと同時に口内に広がるのを感じながら、顎を引き瞼を伏せる。
「……思わぬ再会に戸惑う銀色の獣さ」
たまが僅かに俯き黙考した。
だがそんな事、記憶の引き出しを開けなくても一瞬で浮かぶだろうとお登勢は煙草を地面に落とし踏みつけた。
銀色でしかも躾のなっていない獣と言えば勿論奴しかいない。
「……銀色の獣……ああ、銀時様ですね」
その通り、と肯定を意味するように頷けばたまは更に疑問をお登勢にぶつけてきた。
「銀時様がいったいどうしたのですか?」
「……さてね」
それにはお登勢自身も多くは語れなかった。
ただ分かるのは、あの長髪の男に手を取られながらも銀時のどこか怯えを帯びた瞳と。
後は邂逅ともいえる出会いに戸惑う銀時だけ。
他は何も分からないのだ、残念ながら。
お登勢は再度万事屋に向かって顔を上げた。
空から降る雪がお登勢の頬に冷たく触れた。
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