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あの人の胸の中はやはりあの頃と変わらず暖かかった。
新八達が部屋を出て行く気配を感じたが、目の前にある懐かしい気配を噛み締めたく気付かないフリをした。
松陽先生は生きていた。
喜ばしいその事実と同時に自分にかせた罪も消える事も嬉しかった。
けれど幕府は逃げた松陽先生を血眼になって探すかもしれない。
そしたらまた愛しい恩師と離れ離れになってしまう。
そうならない為に、そして新たな決意を込め銀時は松陽の目を見つめた。
「今度こそ、俺が……アンタを守る」
強い意志を込めた銀時の瞳。
それに松陽は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとうございます……あの時と同じ瞳ですね」
優しい言葉と共に再び触れ合う抱擁。
銀時は松陽の暖かな胸に頬を擦り付けた。
(……あれ?)
感じた。
松陽の抱擁に対する物じゃない。
その前、松陽の礼を言う言葉に何かを感じた。
(なんだ……この……“違和感”は……)
そう、言うなればこれは違和感。
松陽の言葉に何故か違和感を感じた。
(先生なら……こんな時、なんて言ったっけ……)
胸をかき混ぜるように広がる違和感に沈思する。
――こんな時、先生なら……
考えが脳内を疾駆したその時。
「……銀時」
思考を遮るように頭上から松陽の声が降った。
それに顔を上げる銀時。
そこにはあの頃と変わらない松陽の笑顔があった。
「守ってくださいね、銀時」
「……分かってるよ、先生」
銀時は思考を脳内の奥へと追いやった。
松陽先生は守る。
それが俺の成すべき事だ。
【二章】了
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