ぼくと昔話

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  この声は……ポチ? 記憶にあるそれよりもわずかに低い声が響き、強い風が周囲に巻き起こり、灰と煙が放射状に吹き飛ばされていく。 「さーて、黄面…… おしおきの時間だ」 白と黒の虎柄の毛皮をまとった白髪の青年。 開けた視界の中心から現れた男が巨大な蜂に向かって言う。 ま、まさかあれがポチ? ぼくが歌った校歌でポチの力が解放出来たのか? あまりに突然過ぎて戸惑うぼくを無視してポチらしきやつはどこからともなく三味線を取りだし、その弦を弾く。 「音縛呪い節!」 三味線の音が大気を震わせて神社の境内に響き渡る。 ぼくはその音色を聞きながら黙ってポチを見つめている。 「う、動かねぇ!? 穂白大虎、貴様……」 「俺の勝ちだな」 ポチは呟き、鋭い爪で蜂を斬り捨てる。 ベベンと爪が三味線を鳴らし、巨大な蜂が煙のように小さな蜂の姿へと変化する。 「音解禊ぎ節…… てめーの穢れは祓ったぜ」 ポチが決めポーズで飛び去る蜂を見送る。 正直、ポチの話はかなり荒唐無稽で、ぼくがまだ子供だとは言えにわかには信じがたい話だった。 しかし、目の前で目撃したこの怪物との戦い、猫から人へと変身した姿に、ぼくは否応なしに信じざるを得なかった。 これが僕とポチ━━穂白大虎(ほじろだいこ)との出会いだった。  
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