どこか遠く、遥か近く

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・・あたしは・・。 藍は精一杯の想いを 吐きだそうと 口を開いたけれど。 ・・やっぱり・・ 声が出ない。 「・・あたしはね。」 そんな藍を見兼ねて、 彼女は口を開く。 「まったく後悔してないわ。 ・・全てに未練がないわけでは ないけれど。 ・・もっとそばに いたかったって思うけれど。」 もっと・・そばに。 ・・千一さんは・・!! 藍は心の中でその名前を呼ぶ。 どうして・・声にならないの。 役立たずなこの喉に・・ こんなに嫌気がさす日が来るなんて。 藍が何を言いたいのか、 彼女は直感的に分かったのだろう。 哀しそうな表情の藍に 彼女はにっこり笑う。 「・・ちぃと一緒にいられた時間も、 ちぃの唄を歌えたことも。 ・・そしてあの唄が・・ ずっと途絶えずにこうやって、 日本で鳴り続けていることも。 きっと・・あの日々が あったから。 あたしのことは忘れられても、 あの歌は・・忘れられない。」 彼女は藍に視線を戻す。 ざざざ・・ 再び波の音が聞こえる。 潮の香りも風とともに 部屋に舞い込んできた。
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