零章【表裏一致】

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 本日の記録を始めよう。  ここに来て、全ては順調だ。  チームの誰もがそう満足気に微笑むことに躊躇いなど無い。  今までの苦難を並べてみれば、今はなにもかもが十全で、事は流れるように進み、そして残す所は僅かな部分だ。何かに愛されているのだと言うのなら、まさらに我々は影に愛されているのだろう。  しかしここまで順調だと、逆に恐ろしくも感じてしまうのは僕の職業病だろうか。  アクシデントを望むわけではないが、これまでの困難な道筋に皺を寄せ、骨を痛めてきたせいか、背負っていた荷物が突如軽くなった瞬間に、開放感とは違う違和感を感じてしまう。  背負い続けて早四年だ、それも仕方がない事だと思いたい。  それは同時に世紀の大事件から早くも四年が経過しているのだと実感してしまう。時が経つのは早い、などと考えれば急に時間という物が恐くなってしまうのだから、寄る年波にはかなわない。  だが、その考えもまたすぐに些細で些末な物となるのだろう。  全ては明日だ。  明日には全てが円く治まる。この星が望むがままに、全ての角は無くなり、影は一つとなる。  くだらない争いが終り、不毛な戦いは終わる。  明日は、そんな素晴らしい日となる。  そして今日が記念すべき前夜と成るように……そうだ、今日は家族へとプレゼントを買って帰ることにしよう。  妻には何を渡そうか。長い付き合いだが、贈り物は未だ悩みが絶えない物だ。しかし難解と選んだ故に笑顔がありありと、そして想像容易く明々と浮ぶというものだ。  そして最後の一人へのプレゼントはたった今決めることにした。  それは以前から我が子が欲しがっていた十字のロザリオだ。  いつからそんなに神様へと憧れをいただくようになったのか。宝石のようなその両目に輝きを留めようと必死に十字架を見つめる姿は今思い出しても、ついつい目を細めてしまう。親ばかと言われても勿論かまうものか、あの子は僕達の天使だ。先週末に久しく夕食を食べたときは――――ああ。  どうやら、もうそんな時間らしい。軸座君に怒られてしまった。  それでは本日の記録を終了する前に、最愛の一人娘、那月に関する余談を一つ。  どうやら彼女は恋をしているようだ。相手はどんな人だろうね。  以上、記録終了。
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