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暫くして彼女の滝のように流れていた涙はとまった。
彼女は何処にも居場所がなかったのかもしれない。
孤独という慟哭に突き落とされ、一人で逃げることも抗うことも許されず、たった一人で堪え忍んでいたのだろう。
「それでも君は今ここにいるじゃないか」
え?と聞き返すように顔を上げ、瞳をこちらにむけた。
彼女の身体を離し、向き合う姿勢になる。
泣き腫らした赤い瞳がこちらを不安げに見ていた。
「君はここにちゃんと存在している。俺は……君の笑顔を見てみたいな」
「やさしいんですね、こんな見ず知らずの人間に」
「どうだろう、下心かも。お腹も空いてきたしね、ご飯でも一緒にいかがかな?」
おどけてみせると、ふふっと彼女は優しく笑ってみせた。
「そうですね、うちがご馳走します」
俺は頷いた。
今はまだ、この子を一人にしてはいけない。
そんな気持ちが俺を禁断への入り口に招いてしまったのだった。
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