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暫くの沈黙、いきなり他人様にリストラされました……なんて言えるわけもなく。
沈黙を守るしかなかった。
なんとも言えぬ空気だったがかといって、じゃあすみませんでした、といってかえれる雰囲気でもなかった。
視線がぶつかると、彼女は目を伏せて自嘲気味に笑っていた。
「……まあ偉そうにそんなん私も人のこと言えないんですがね」
彼女の視線の先を追うと、白い手首には生々しい紅い傷が数ヶ所刻まれていた。
「……それは」
「今朝ね、死のう思て付けた傷なんです」
驚きというよりその痛々しい傷跡が不憫で、たまらなかった。
「こんなになって……」
彼女の白い手首をそっと握り傷をさすりながらいった。
何故そうしたのかは分からない。
だけど放っては置けなかった。
怖かったろ。
辛かったろ。
苦しかったろ。
悔しかったろ。
様々な気持ちをその手に込めて俺はさすった。
何があったのかなんて言葉なんていらない……彼女の手の傷は古いのやら新しいのやら、幾重にも重ねられたものだった。
「生きててくれてよかった、君が俺を救ってくれたんだから。生きててくれて有り難う」
「……はい」
彼女は小さく肩を震わせながら暫く俯いて泣いていた。
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