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「あの…………すみません」
彼女が顔を真っ赤にしながら手をひいた。
いつの間にか周囲の注目を集めていたようで、行き交う人々の視線が刺さる。
「うわ、すまない、なんてことを……」
そんな気はなかったとはいえうら若き女性の手を撫でまわしていたのだから、セクハラ、痴漢扱いされても文句はいえない。
「いいんです、ほんまにさっきの一言で救われたんで。お礼にお茶でも一緒に如何ですか?」
はにかむように笑う彼女はやはり美しかった。
「いいよ……大したことしていないから、寧ろ助けられたのはこっちだから」
俺は彼女に一礼すると踵をかえした。
家に戻ろう。
帰ってカミさんに会社の事話そう。
辛いのは俺だけじゃない。
苦しいのは俺だけじゃない。
「有り難うございました!」
彼女の声が背中にかかる。
その有り難うが頑張れに聞こえて勇気がわいてきた。
有り難う……か。
本当に感謝するのはこっちだ。
こんな情けないオッサンを助けてくれたんだから。
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