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バスルームの扉が開き、また閉まる音。
濡れた身体をバスタオルで拭き、ハンガーに掛けていたワイシャツを着て、身支度を始めているのが気配で分かった。
優子は一人分の体温でぬるくなったシーツにくるまり、高橋に背を向けた状態で、寝たふりを決め込んでいた。
高橋には戻るべき家があり、それが彼の優先順位だというのも分かっていた。
ベッドを共にしたとしても、共に朝を迎えることは出来ない。
彼が出て行くまで、あとどのくらいだろう。
あとどれだけ目をつぶっていよう。
シュルッとネクタイをしめる音が耳に届く。
きっと、もうすぐ。
パタン、とドアが閉ざされると「ほらね」と優子は呟いた。
「キスもせずに、出て行った」
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