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女性の顔が、一瞬のうちに恐怖に歪んだ。
レインコートを身に纏った人物は、一瞬だけ同じ瞳を女性に向けて、そこを後にした。
もうこの葬儀場に用はなかった。
もともとここを訪れたのは、夫婦の死が事実なのかを確かめるため。
目的はそれ一つだけだった。
ところどころに水の溜まったコンクリートの上を歩く。
あたりは静まり返っていた。
雨粒が地面にぶつかる音と、地を踏みしめる自分の足跡しか聞こえない。
今は、十一月の半ば。
ただでさえ冷え込んだ外気の中、雨の冷たさが身に染みた。濃い土の匂いが鼻をつく。
灰色に染まった景色の中で、同じく灰色の瞳を持った少年の姿が思い浮かんだ。
自分はその少年を知っているはずなのに、不思議と名前は出てこなかった。
――カミヤヨイ。
ようやく名前を思い出したのは、それから数日経ってからのことだ。
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