始まりの章

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「アクア!クムドゥルが出たわ!」 勢いよく扉を開け女は怒鳴るように言った。 女の言葉の先にはアクアと呼ばれたもう一人の女が壁に寄り掛かるようにして座っていた。 色素の薄い髪。一見白髪に近いその髪だが、老廃した様子は全く感じさせない艶やかな毛色。陽光を浴びると銀髪に見えるほどである。 顔つきも凛々しく、目付きは切れ長、と言うより鋭い、と言うほうが正しい。 入り口に立つ女に一瞬目を向けたが、すぐに視線を手元に戻した。 その手に持った刃に。 どうやらアクアは自分の獲物の手入れをしていたらしい。刃を研ぐために切り出された岩の一片がアクアの脇に置いてある。 「ちょっとアクア!早くしてよ!逃げられちゃう!」 女がもう一度アクアに呼び掛ける。 女の髪色は褐色ががっていてやや赤い、こちらも凜とした雰囲気の顔立ちだが、アクアと違うのはその目つきと口元である。アクアを『鋭い』と表すならばこちらは『尖っている』と表されるだろう。吊り目で細い。そして彼女の顔立ちを印象付けるものは常に上がった口角。笑っているわけではなかろうが、常に笑んでいるように見える。細い目とあいまって、一見微笑んでいるようにも見える。 「そんなに大きな声で言わなくてもちゃんと聞こえてるわ。今、丁度研ぎ終わったのよ。私のサカヅキ」 アクアは手に持つ刃をうっとりと見つめ、鋭い目をさらに細めた。 「ルビーお待たせ。行きましょ。クムドゥルを薙ぎ殺しに」 そう言ってルビーと呼ばれた女に視線を移し、アクアは立ち上がりうっすら笑みをうかべた。
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