29人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだここは…」
奈落はひとまず井戸から出ることにし、外に出た途端目を疑った。
「ここは…どこだ?」
周りを見渡すが見慣れない景色が広がっているだけだった。
「蔭刀も無事だったからいいものの…もしやここがかごめの言っていた現世とやらか?」
「おや?見慣れん奴じゃな」
「!」
(迂濶だった…このわしがたかが老人の気配に気付かんとは…)
「何だ老人」
「お前さん何処から来た?」
「そんなことどうだってよかろう」
「そうもいかんて…ん?お前の抱えておるその者大丈夫か?」
「!蔭刀…」
「やむを得ん、うちに来なさい」
「…………」
完全に警戒を解いた訳ではないが、蔭刀の具合を優先し、奈落は老人の後について行った。
「このまましばらく寝かせておくとよいと思うぞ」
「……礼を言う…」
「はっはっは!構わんてそれじゃあの」
そう言って老人は襖を閉めて出ていった。
奈落は蔭刀の目にかかっている前髪をそっと退けてやり、頬に手を添えた。
「無理なことをして…わしの体は傷付こうがすぐに治る…それなのに…」
先ほど鉄砕牙が掠めた足も既に治りかかっていた。
「蔭刀……だいぶ落ち着いたか…」
蔭刀の荒かった呼吸もだいぶ落ち着き、未だ顔色はさほどよくないものの眠っている。
奈落はそのまま蔭刀の頬や頭を優しく撫でた。
「蔭刀…お前はわしの……」
“なにか特別な理由でもあるのかしら…”
“んな訳あるか!アイツはどうせ道具を壊されたくなかっただけだろうよ”
「わしの…道具などではない…」
奈落は蔭刀の枕元から離れることをせず、ただただ優しく撫で続けた。
最初のコメントを投稿しよう!