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耳から離れないあまい声。
網膜に焼き付けられた綺麗な顔。
舌に残るたばこの苦い味。
どうしてもあのひとの存在を振り切ることはできなくて、そのたびにひっそりとため息をついた。
ピンポン、とインターホンが鳴る。
今まで作ったネタを見直して、また別のネタを考えようとしていたときだった。
ノートを閉じて壁に掛けている時計を見れば、すでに二時を回っている。
(…こんな時間に来るひと、って言ったら)
寝不足のためふらつく足で玄関に向かい、チェーンを外して鍵を開けた。
「っかばやしぃ~」
扉が開かれた瞬間に重いものがのしかかっていて、若林は思わず顔をしかめる。
「離れてくださいよ、徳井さん」
口から出た言葉は無意識に冷たくて、でも言ってしまったからには戻らないと若林は徳井の体を引きはがした。
「ん~…、アタマ、痛い…」
酒を大量に飲んできたらしい徳井はこめかみを押さえ、きれいな眉を寄せる。
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