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「ふくちゃあん」
収録が始まる少し前──結構狭い楽屋で向かい合っている中、徳井が甘えた声を出す。
「…なんや」
こんな声を出すときはろくなことを考えていないときだと福田は心構えた。
「ふくはさぁ、どーやって死のうとか考えたことある?」
「はぁっ?」
突拍子もないことを言われて、目を見張る。
「別にいますぐー、とか言うことやなくてじいさんになってからとかでもええんやけど、考えたことない?」
「んなこと考えたこともないわぁ。…てかお前そんなこと考えとんのか?」
「考えとるんよ~」
けらけらと笑いながら徳井はお茶の入ったペットボトルに口づけた。
「…したら、お前はどやって死にたいねん」
んとなぁ、と小さく言い、徳井は黒目だけ上に向けた。
しばらくその表情を見ていると、何かを思い出したかのように面もちが変わった。
「死ぬ前にむーっちゃ幸せになりたいんよ」
「しあわせ、に?」
「せやせや」
「…具体的に言うてや」
福田は首を傾げ「それだけじゃよう分からんねん」と軽く顔をしかめた。
そんな福田を見て、徳井はさも楽しそうに笑う。
「例えば、なぁ……うーん」
「ははっ、ないんかい」
穏やかに微笑み合うふたり。
気づけば唇が触れていた。
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