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「この、歴史は終わったんだね」
ポツリ。声が漏れた。
漏らしたのは黒い帽子を被り、黒いコートを着た……影。
いつの間にか、砂の中にそのカラダを起こす。
楽しげに、誇らしげに、そして……ほんの少しだけ切なげに紡がれる言葉。見えるはずのない口が動くことなくその低く地を這う声を空気に載せる。
「ええ。もう……終わったの」
ポツリ。他の声が答える。
瓦礫の積み上げられたその遙か上空。遠い遠いソラに身を任せる、一人の天使。
灰色の雲が広がり……しかし、彼方此方からヒカリの漏れる空を背負い、微かに笑みを形作る。
哀しげに、物憂げに、そして……ほんの少しだけ穏やかに紡がれる言葉。淡いルージュの引かれた唇が小さく動いて謳うような声を空気に馴染ませる。
「この歴史は終わってしまった。本当に忘れてしまうほど昔に始まって、本当に気が遠くなるほど長い時間をかけて、衰退の道を辿った」
天使は瞳に哀を宿して見下ろした。
「でも、それはどの歴史もが辿る道」
影は見えるはずのない瞳に楽を宿して見渡した。
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