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「ありさちゃん」
不意に自分の名前が呼ばれて振り向く。
そこには、雪のおじさんとおばさんが目を兎みたいに真っ赤に腫らして立っていた。
二人とも雪が死んだせいですっかり元気を無くしたようだった。
昔、消防士で体格の良かったおじさんも今は私よりも小さくなってしまったんじゃないかと思うくらい弱々しく見える。
無理もない、おじさんもおばさんも一人娘の雪を目に入れても痛くないほど可愛がっていたんだから。
「おじさん…おばさん…。」
「ありさちゃん…。今日は来てくれてありがとう…。」
おばさんが頭を下げる。
それにつられて私も頭を下げる。
「いえ、まさか雪がこんな事になってしまうなんて……。」
私の言葉におばさんが静かに頷く
「崖から足を踏み外すなんて…」
可哀想な雪、学校の裏の崖から足を滑らすなんて…
いったい、そんな所で"何"をしていたの?
「雪はもういないけど、ありさちゃんまたよかったらいつでも遊びに来てちょうだいね?」
「もちろんです。雪の大好きだったチーズケーキを持って、またお邪魔しますね。」
「ありがとう…。雪も喜ぶわ、そろそろ式が始まるから、またねありさちゃん…。」
おじさんとおばさんは、もう一度頭を下げた後前の席に戻っていった。
その背中はちょっと風が吹いただけで倒れてしまうんじゃないかと思うくらい頼りなかった。
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