最終電車

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プァァァァァ! 激しい音を立て、電車が目の前に滑り込んでくる。 おおかた酔っ払いが、白線の内側に下がってなかったのだろう。 不注意な奴は、死ぬまで、その不注意が治らないのだ。 運転手は、事故が起きないよう、気遣って、親切心で鳴らしているというのに、 中には怒り出すやつも居る。 ふぅ。 事故は、起きなかったようだな…… とにかく心臓に悪い音だ。 深呼吸して、時計を見る。 暦の上では、もうすぐ、明日。 だけど、まだ、最終電車どころか、何本もの電車が、 こうしてこの駅に到着するはず。 こんな時間に、俺は、 ホームのベンチに座り、 通り過ぎる人々の流れを見送っていた。 目の端では、一人一人の人を値定めるように注視しつつ、 それでも、ぼんやりと考えていた。 ……いいのかな、これで。 小さい頃は、運転手になりたかったんだ。 いや、運転手には、なった。 だが、俺が始めて一人での運転を任された日。 俺の運転する電車が、一人の青年を、轢いてしまったんだ。 そいつは、閉まっている踏切の中に、無茶な入り方をして、 転び、 固まった猫のように、俺の顔を、目を、じっと見ていた。 な、なんで、俺のことを見るんだよ! まるで、俺を責めるみたいな目をしやがって。 俺は、ちゃんと、急ブレーキをかけたんだ…… 勝手に入り込んだのは、お前だろう? 電車は急には止まれないんだよ…… まだ、若かったその男は、 電車と線路の間でちりぢりに引き裂かれる最後の瞬間まで、ずっと、 俺の目を見つめていた。
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