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「成程、それがあなたの『恐怖』ですか」
放課後の教室。
あの女の人に遭ってから一週間。
机を挟んで私の前には、眼鏡を掛けた利発そうな男子がいる。
私は、彼に交差点での出来事を話した。
「それから、その交差点には行きました?」
「いえ……ずっと違う道を使ってます」
「ふむ、良い心掛けです。克服出来ない恐怖なんて、逃げるに越した事はありませんから」
「はあ……」
「さて、我らが『ランチキ』のメンバー、この件をどう見る?」
男子が、後ろで話を聞いていた数人に意見を求めた。
初めに口を開いたのは、背中まで届く髪を一つにまとめ、前に流している女子だ。
「見間違いや勘違い、ではありませんか?」
柔和そうな見た目通りの声で私に聞いてきた。
「いえ、確かに私に向けて言いました。『何で分かったの』って」
「見覚えは?」
気だるげな声で尋ねてきたのは、夏服のカッターシャツの襟に安全ピンを三つ、勲章のように付けた男子。
「……ありません。初めて会った人です」
「『人』ぉ? 本当に『人』なのかなぁ? それってぇ」
ロッカーの上に座っている、パーマなのか寝癖なのか分からない髪型の男子が、しゅしゅしゅ、と変な声で笑った。
「……どういう事ですか?」
キモい、という言葉をぐっと飲み込んで、私は尋ねた。
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