交差点の彼女。

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「うっそ、ストーカーじゃん、それ」 昼休みの教室で、里奈が顔を近付けて言った。控え目な茶髪から、甘い匂いがする。 公園での出来事から暫く、あの女は出てきていない。 私は、思い切って里奈達に打ち明けてみた。 「警察には?」 「言ってない。特に何されたわけじゃないから」 「尾けられてんじゃん!」 「でも、被害があってからじゃなきゃとりあってくれないって、テレビでやってたよ」 隆志の可愛らしい顔が、心配で歪んでいる。 こうやって心配してくれてる人がいるというだけで、結構心の支えになるものだ。 やっぱり、相談して良かった。 「ほら、秋、彼女が困ってんじゃん。助けてやらなきゃ駄目だぞ」 里奈が、秋雄の鼻先へビシッと指をつきつける。 秋雄が私をみる。 「……大丈夫か?」 「……うん」 「そっか……」 「……って、それだけかーい! もっとあるだろ! 『俺が守ってやるから』とかさあ! 『一緒に帰ってやるぜ』とか!」 「里奈、大丈夫だよ。言葉が無くても二人は通じ合ってるもんねー」 里奈と隆志の掛け合い。 不器用な秋雄の優しさ。 これだから、私は学校が好きなんだ。 「あ、そう言えばさ」 里奈が唐突に話し出した。 「四組の江良本って知ってる?」 「江良本……ああ、いっつも学年上位の人?」 「そうそう、あいつが何か、怖い事を解決してるとか」 「何それ?」 「分かんない。でもさ」 里奈がまた、顔を近付けて言う。 「解決出来ない事は無いって」 「……からかってんの?」 違う違う、と里奈は手を振って笑った。 「本当に解決してくれんだって。ほら、由希の不登校。あれ、江良本が解決したんだって」 「嘘くさーい」 隆志が茶化す。 本当に嘘くさい。 確かに、由希は六月頃から不登校になって、一ヶ月ほどして学校に来た。何があったのか、怪我で入院してたとしか聞いてないけど。 「本当だってー。他にもあるんだよ? 『花子さん』退治したとか」 花子さん。 この学校で流行っていた怪談。 実際、行方不明者も出ている。 『怖い事を解決してくれる』 まさか、本当に? 「……まさか、ね」 でも、もし本当なら、 私の『怖い事を解決』してくれるだろうか。
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