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空には、クジラがプカプカ浮いていた。地上にいる僕らへふっくらとした腹を見せて、のん気に傘なんて差して飛んでいる。
これ、おかしくないか。クジラって空飛ぶっけ。顔は見えないけどさ、どうせのん気な顔して飛んでんだろうな。
危ないぞ。人間に見付かったら、とっ捕まるぞ。
クジラは、僕の心配をよそに進んでいく。ゆっくりと、のろまに、少しずつ校舎から離れていく。
右ヒレに持った傘から、雪を降らせて。
――その時、僕はなぜか、追わなければならないような気がした。
「……先生!」不意に僕は手を挙げ、少し声を張る。「すみません、早退していいですか!」
授業なんて受けてる暇はない! そう感じた。あのクジラが見えなくなる前に、何か、何かを確かめないといけない。誰に命令された訳じゃないけど、僕がやらなければいけない気がした。
先生は、肩をすくめてこう言った。
「……もう帰りのHR終ってるぞ。ボーっとしてんな」
……あ、もう皆いない。いつの間に。
僕は顔が火照るのと同時に、バッグも持たず教室を出ていった。
早く、早く外へ!
―― 一つのことに集中すると、周りが見えなくなる癖を直せ。
そういえば、小学校の担任にそんなこと言われたことあったな。
自分の性格を改めようか迷ったが、今はクジラを追うのが先だ。そんなこと考えてる暇はない!
僕は今までの人生で最速の走りで学校を出、雪の積もった道路へ飛び出した。さあ、クジラはどこだ。
――もう、見えなくなっていた。
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