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「おかしいなあ……あの速度なら、追えると思ったのに」
僕は荒くなってきた息を整えつつ、辺りを見回す。
あれ、クジラってどっちに行ったんだっけ。確か、僕の席から見てあっちだから……東だな。
東へ目を向けると、立ち並ぶ住宅の向こうへ電波塔が見えた。とりあえず、あそこを目指すか。雪はそっちに続いてそうだし。
僕は慌てて履いた靴をもう一度履き直し、再度決心した。
よし、絶対にクジラを突き止めてやる。
幸いかは知らないが部活はないし、今日は早帰りということでまだ昼を回ったばかりだ。時間はたっぷりある。帰宅も……まだいいだろう。
とりあえず、誰よりも先にあのクジラを追い詰める。それだけを目標に行こう!
そうして、人通りの少ない雪道を僕は走り始めた。
走るのなんて久しぶりだな。雪は滑るし、こけないようにしないとな。
白い雪は、僕が踏む毎に足元で固まり、たまに足跡を振り返ると、その部分だけ点々と黒味がかっていた。
――雪にも、黒くなる時はあるんだな。
そこで僕は、段々と厚くなっていく雪を踏みしめることで、とある幻想を抱かされた。
いつか、僕は雪に埋まっていくんじゃないか。走り続けることで、いつの時か周りが雪だらけになって、白い雪に囲まれてしまうんじゃないか?
……でも、それも別に悪くないかも知れない。
一面真っ白。冬の花に全身を覆われるのも、視界が白だけになるのも、悪くない。
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