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いつの間にか自分の体は、地を踏まずプカプカと浮いている。辺りが全く見えず、並んだ住宅もどこかへいってしまっている。
どこだここは。
遂には、自分が浮いているのか立っているのさえ分からなくなった。
ただ、居る。僕の周りは暗くて、僕はどこかへ居た。
――ふと、目の前がポウっと明るくなった。何か、白黒の映像が見える。録画された昔のビデオファイルのようだった。
そこの場所は、分からない。でも、人物は何となく見えた。
女の人が一人、暴れている。何か周りの物に怯えるように、酷く怖い顔で発狂していた。
そして宥めようとする、母親、父親。
僕は、見てるのが辛かった。たまらず目を瞑ろうとする。しかし、その白黒の映像は消えなかった。女の人は変わらず、物を殴り、物を投げ、何かを訴え続けていた。
まるでこれは、獣の牙だ。僕の心に、深く突き刺さる。
暗い映像は確かな事実として存在し、鋭利な刃物として具現化された。悲痛な事実は、僕の肉を容易くちぎり、骨を砕き、心を食う。
――僕はいつからか、涙を流して映像を見ていた。
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