2 同僚のアナタ

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仕事の楽しさを感じ始めた頃、香那美は望月洋介という人間を知った。 まだ顔を覚えていない香那美は先輩である井本さんと一緒に受付に立っていた。 初夏の風と共にスーツを着た綺麗な女性がやってきた。 「望月洋介をお願いします」 来客の予定表を見ると、約束の予定が入っている。 香那美は習った通り女性に椅子をすすめ、洋介を呼び出した。 階段を下りてきた洋介に、女が立ち上がり、走ったかと思うと抱きついた。 一瞬のことだった。 「洋介」 女は抱きついたまま、色っぽい声で名前を呼んだ。 洋介は気まずそうに香那美達の方向を見ると、女を押しやった。 「もう関係ない。来るなって言っただろ」 「でも、私は・・・」 「勘違いすんなって言っただろ。アンタだってわかってたじゃん。俺はそれ以上になるつもりはない」 洋介からしたら彼女ではないらしい。 けれど、真っ赤なマニキュアが洋介の服を離さなかった。 「じゃあ今までと同じでいいから・・・」 「もう無理」 女の言葉を遮って洋介は吐き捨てる。 「職場まで押しかけられたら引くし。マジ勘弁して」 「ゴメン・・・」 女は洋介の顔色を伺っていた。 けれど、洋介は女と顔を合わせようとはしなかった。 「さよなら・・・」 泣いている女に洋介は特に何も言わず、ただため息をひとつ漏らしただけだった。 つい数ヶ月前に繰り広げられた自分の泥沼を思い出す。 罵倒に暴力。 手当たり次第に物が投げられ、いろんな物が壊れた。 みんな仕事にならず、その恐ろしい光景を遠巻きに眺めているだけだった。 今日は外野の立場。 あの時は誰も助けてくれなかったと恨んだりもしたけれど、みんなの気持ちが少しわかった気がする。 そして、状況は全く違うはずなのに・・・ 今の洋介に香那美はどこか自分と似た部分を感じていた。
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