2 同僚のアナタ

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洋介はそのまま受付に来ると、吹き飛ばされそうなくらいに、かる~い調子で 「今日のことを黙っておいてよ」 と二人に口止めした。 「口止め料。ご飯をご馳走してね」 井本さんは悪い顔をしてにっこりと微笑んだ。 その日の夜、早速三人は雰囲気のいい洋食屋に行くことになった。 井本さんと洋介は同期で昔から仲がいいらしい。 昔はよく同期が集まって食べたり飲んだりしていたのだと井本さんは話す。 二人は懐かしい思い出話で盛り上がっていたから、香那美は相槌を打つくらいで食べることに集中していた。 会話が途切れた時、ふと井本さんが真面目な声で口を開いた。 「望月、私がいなくなったら会窪ちゃん頼んだよ」 井本さんは妊娠している。 そして、あとひと月ほどで産休に入る。 産後は様子を見て復帰すると言っていて、一年で帰ってくる保障はなかった。 井本さんは少なくなったウーロン茶をストローでぐるぐる回しながら香那美に笑いかける。 「この人、女にだらしないけど会社の子には絶対に手を出さないから大丈夫。仕事も・・・まあそこそこできるようになったし、何かあったら望月に言いなよ」 「そこそこって・・・」 洋介の声がしたが井本さんは構わず続けた。 「まあうちの旦那でもいいけどあの人ちょっと波があるし、年が離れてるから望月のが言いやすいだろうしね」 洋介と井本さんは香那美よりも3つ年上で30らしい。 井本さんの旦那さんも同じ会社だが、それよりも更に3つ上だと言っていたので33。 確かに6つ離れた人よりも、3つ離れた人の方が話しやすい気がした。
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