SCENE.20 ABSOLUTE

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右の中低速。龍はブレーキングで瞬間的にZに掛かる荷重の全般を左側へ移し、間髪入れずにアクセルを踏み込む。 慣性と遠心力によって大きな駆動力はスルーされるのを利用し、意図的にスナップオーバーに持ち込む。 そこから刹那のタイミングを見切り、アクセルを戻す。 空回りしていた駆動力が切れる事でタイヤのグリップは急激に回復。 本来であれば姿勢が崩れて破綻してしまうのだが、Zはカタパルトよろしくコーナー出口に向かって加速。。 龍もまた、蓮とは違ったアルティメット・ストレートを使い、三門峠の下りを走る。 有らん限りのドライビングテクニックを用いて、NSXに肉薄していく。 車間は少しずつ縮まっていき、Zの射程距離内に近付いていく。 走りの差異による車間の変化。 蓮のNSXは、アルティメット・ストレートを行う際のプッシュアンダー防止の為、足回りを超オーバーステアなセッティングにしてある。 コーナー進入時のブレーキングによる荷重移動から、ステアリングで車体を急激なオーバーステアに持ち込ませる。 それがNSXの走りの正体。 しかし、峠で無くとも、このような無茶なセッティングでミス無く磐石な走りが出来るのは、偏にシステムによる恩恵に他ならない。 対し、龍のZはブレーキングは飽くまでキッカケで、本命はアクセルによる操作。 強く短いブレーキングからアクセルを踏み込む事で、意図的に強いオーバーステアを作る。 全体的なブレーキングの時間とアクセルによる加速の時間。 それらが僅かに龍の方が上回っていた。 結果として、性能面では劣るZ31がNSXに追い縋るという奇妙な状況が出来上がる。 赤崎蓮は焦りを隠せずにいた。 序盤は食い付かれてしまうのは分かっていた。 だが三門峠は中盤からスピードレンジが上がる。そこでZは失速。 後はシステムに任せて走ればそれで良い。 だがZは離れない。 それを考慮すると、Zはこの中盤でNSXと同等、もしくはそれ以上のハイペースで走っている。 NSXのサウンドを掻き消して車内に飛び込み、蓮の鼓膜に直撃する。 現実味が薄れ行く速度域の中で、赤いZ31は存在感を強くしていく。 何時破綻してもおかしくない。マージンを削り、多大なリスクと引き換えて成せる速度域。 常識も理屈も全て置き去りにして、Z31は神憑りな速さを見せる。 これこそが自分にとって最高の走り。これ以上は無い。 龍は自身の中で強く確信した。
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