1人が本棚に入れています
本棚に追加
卒業
3月。温暖化の影響か、上旬にも関わらず桜は満開、そんな中を僕と彼女は歩いていた。
「はぁ~卒業しちゃったなぁ……」
そう、僕達は本日高等教育の課程を卒業した訳です。
「そうだね」
花弁を散らす桜を見上げながら返した。
「にしても吹奏楽部、退場のときに泣きまくって演奏になってなかったね」
彼女はくすくすと笑いながら言った。我が校の卒業式では、入場と退場のBGMを吹奏楽部が演奏することになっていて、退場の時は部員の殆どが大号泣で曲に成ってなかった。ただ――
「素人さんには分からないさ」
僕達が吹奏楽部員だったから分かっただけだが。
「……埼玉行っても宜しくね」
彼女はいきなりそんな事を言った。僕と彼女は埼玉の大学に進学を決めている。
「こちらこそ」
双方の家族公認の恋仲で親同士も仲が良いため、埼玉で彼女と同棲することになったのだ。
「という訳で」
彼女は徐に右手を差し出して来た。
「はい」
僕はその右手をしっかりと握る。絶対に離さないように。卒業して、高校という鎖が無くなったからこそ。しっかりと僕が守る。
「でも…………変なことは……あんまりしないで……ね?」
頬を朱に染めて彼女が言った。
僕の答えは――
「善処します」
…………嗚呼、情けない。
最初のコメントを投稿しよう!